大正三年(1914年)刊 吉岡房次郎著 女子技芸つまみ細工全書より
吉岡房次郎氏の著書には、つまみ細工に必要な材料と道具についても記されています。大正時代、どのような材料、道具が使われていたのでしょうか。
1.つまみ細工の材料
- つまみ用の絹: ちりめんより薄い素材で、当時はつまみ用に作られた絹があったようです。
- つまみ用のちりめん: 絹同様、つまみ用のちりめんがあったようです。
- 綸子: つまみに使う為ではなく、土台用の生地として利用されていました。
- 羽二重: 綸子同様
- 厚紙: 台紙用に使用
- ボール紙: 額や写真立ての土台として使用
- 釜糸: 絹糸かんざしの組上げに使用
- 針金: おちりん用のワイヤーとして使用(昔は針金を焼いて白く柔らかくしていた)
- 姫糊: 上白米を水に浸し磨り潰し煮て作る。
- 足: かんざし用のニューム足(蛙股、松葉型など)
- 絵具: 布染めとして使用
吉岡氏は、つまみ細工に使用する布の基本色についても述べています。
樺色(蒲木の樹皮の色、強い黄赤)、鶸色(黄色に近い黄緑)、肉色(肌色)、セルリン(鮮やかな青)、白茶(ベージュ)、浅黄色(鮮やかな緑みの青、藍染の一種)、水浅黄(浅黄色を水色がからせたもの)、牡丹色(鮮やかな赤紫)、白、黒、黄、藤色、鳩羽色(鳩の羽のようなくすんだ青紫)、茶色、オリーブ(暗くくすんだ黄緑)、青などを揃えておけば大抵のものは作ることができると書かれています。
色を並べてみると、日本の伝統色らしく、落ち着いた渋めの色が多いのがわかり、当時染めに使われていた造花用の染料がこのような色味だったことがわかります。
2.つまみ細工の道具
- ハサミ: 握りばさみ(糸切りはさみ)西洋はさみではなく、日本のはさみはピンセットを持ったまま使えるので効率が良い。左の中段の絵を参照ください
- ピンセット: 鉄製のもので先が細く平らなもの、造花用のピンセットでは上手くつまめない。
- へら: 竹べら
- のり板: 檜、または朴木が、水にも強く、しっかりしていてよい。糊を広げる面が削げない板を使うべき。
- 螺旋器: 花芯の渦巻きを作る時に使用。左の上段の絵を参照ください。花芯については下の写真を参照ください
- コロ板: 針金を真っすぐに伸ばすために使用。左の下段の絵を参照ください。
花芯のサンプルです
このように並べて見ると、大正時代にはすでにピンセットが使われる一方で、現代では見かけなくなったつまみ細工専用の布や専用器具が揃っていたり、たくさん使う糊などは米から自分で作っているなど、そのバリエーションに驚かされます。それほどにもつまみ細工が庶民の間に広がっていたことの証ですね。
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